この『ロコムーブの理論と実践』はVer. 2.1(2018/10/21更改)です。

 

はじめに

ロコムーブによって潜在的な身体能力を見出し、ライフスタイルが変わった人達がいます。ロコムーブとはどんなものかを知ってもらうために紹介します。

 

椎間板ヘルニアの腰痛が改善し、学生時代苦手だったスポーツを満喫 Aさんは現在39歳の男性サラリーマン。学生時代は運動に苦手意識があり、これといったスポーツ経験はありませんでした。新卒でメーカーに就職後、営業の仕事をしていたが新卒10年目で一念発起して全く別業界であるインターネット系の広告代理店に転職。新しい職場は景気が良く、Aさんは忙しいながらに充実した生活を送っているつもりでした。

しかし長時間のデスクワークによって腰が痛くなり始めました。休日を使ってカイロプラクティックに通うように。カイロに行くと一時的によくなるも、すぐに痛みが戻ってきます。そして、痛みが段々ひどくなるようになってきました。

ついに整形外科に行くと椎間板ヘルニアとして診断され、外科手術を勧められました。しかし、Aさんは外科手術には戸惑いがあり、手術を受けられませんでした。腰回りを動かすことに恐怖感が芽生えて来て、段々気持ちも滅入るようになり会社に出社できないことも多くなってきました。自分が抱えているのが、腰痛の問題なのかそれとも心の問題なのか分からなくなってきました。

そんな時、Aさんはロコムーブに出合いました。手術をしないで腰痛を改善したいとトレーニングを始めました。

腰痛は意識することがなくなるくらい改善しました。朝のつらい気持ちが無くなり会社に行けるようになりました。

そこからさらにAさんの生活は変わっていきます。Aさんは職場の仲間に誘われて始めたゴルフに目覚めたのです。ロコムーブでのトレーニングはゴルフのスイング技術向上のためのものに変わって行きました。学生時代には運動に苦手意識があり、しかも入門者からゴルフを始めたAさんは職場の仲間内でも上級者として扱われるようになりました。

Aさんは更に会社のフットサル部にも入りました。そこでもロコムーブの身体の動かし方が活きています。アラフォーでありながら長時間出場し活躍できる頼もしいプレーヤーとなりました。

 

腰が曲がって認知症の疑いがあったが、今ではスタスタ歩いて旅行三昧 Bさんは72歳の女性。60歳を過ぎたころから坐骨神経痛に悩まされるようになりました。接骨院で電気温熱治療を受け始めました。

以前、調子が良いときには散歩をするようにしていたのです。しかし、それから買い物に行く以外に外に出る機会がめっきりなくなってしまいました。

それから腰が曲がってきました。病院で老人性円背(加齢により背中が曲がること)と診断されました。それは、加齢によるもので大きな心配はないと言われました。ただ、骨粗鬆症の疑いがあるのでよくカルシウムをとるようにということでした。

腰が曲ってから歩くのがどうしても遅くなりました。歩く時はがに股でゆっくりしか歩くことができません。そのため近所に買い物に出かけるのも一仕事です。もともと遠出をするには車で迎えに来てもらうしかありませんでした。腰が曲ってからは億劫で自分からはとても遠出しようとは思えません。家の中では食事の用意と洗濯、簡単な掃除をする他はテレビを見て過ごす生活になりました。

また、最近ひどく忘れっぽくなりました。息子や娘とのやり取りから認知症の心配されるようになりました。

息子の勧めでロコムーブのトレーニングを始めました。そして、歩行フォームが変わりました。スタスタと速いペースで歩けるようになりました。

少し遠出をすることも嫌ではなくなり、外に出て散歩をするようにもなりました。娘と一緒に行った金沢旅行が素晴らしく、それから旅行に行きたくなりました。スタスタ歩けるBさんにとっては旅行はもう億劫なものではありません。娘や妹、友達と精力的に温泉地や観光地を巡っています。

 

痛い膝との付き合い方を変えて「サブスリー」達成 Cさんは55歳のエンジニア。学生時代は大学まで陸上部で中距離の選手でした。社会人になって陸上からは離れ、ゴルフに熱中しました。

しかし、10年ほど前、断りきれない形でロングランの大会に出場しました。それから、陸上熱に火が着いたのです。フルマラソンへの出場を目指して練習するようになりました。「自分の弱さに打ち勝つ者こそが勝つ」という高校時代の先生に言われた言葉を思い出しました。それが今の自分が求めているものだという気がしたのです。

毎朝5時に起床して練習を2時間するのが日課になりました。その生活サイクルもすっかり定着しました。フルマラソンを3時間を切るタイムで走る「サブスリー」をはっきりと目標にしていました。

しかし、練習中に膝の痛みを感じるようになりました。そこで「自分の弱さに打ち勝つ者こそが勝つ」という言葉を思い出しました。自分の膝の痛みが「打ち勝つべき自分の弱さ」のようにも思えてしまいます。そして、さらなる練習によって痛みに打ち勝つことができるのではとも思ってしまいます。しかし、痛みはかなり深刻になってきました。

そんな時、ロコムーブに出会いました。膝とうまく付き合って走れるようにとトレーニングを始めました。それをきっかけに走行フォームの向上を追求し始め、トップランナー達の歩行フォームの研究に熱中しました。自分自身の走りについてもフォームの追求によって、まだまだ高みを目指せることに興奮しながら取り組みました。膝については痛みがほぼなくなりました。そして、ついにサブスリーを達成しました。

 

 

身体の使い方次第で身体は壊れていく

人間には大きな潜在的な身体能力があります。潜在的な身体能力を発揮することで、歩く、走る、投げる、打つ、蹴る、跳ぶといった運動のパフォーマンスは飛躍的に高めます。

そして、その潜在的な身体能力を発揮できるか否かは、身体の使い方次第です。身体をうまく使えば高いパフォーマンスを示すのです。

しかし、現実には逆のことが起こっています。多くの人の身体の使い方がまずく、そのため身体能力を発揮できないどころか身体を壊してしまっているのです。

先程のAさん、Bさん、Cさんの身体の使い方はどうだったのか、振り返ってみます。

 

座ったままでいると裏ももが硬くなり、猫背の原因に Aさんは長時間のデスクワークで椎間板ヘルニアになってしました。なぜ椎間板ヘルニアになるのかというと、長時間腰椎が曲がったまま固定されてしまっており、そこに体の重さで圧力がかかり続けたからです。そこで椎間板という錐体の間にあるクッション材のようなものが外へ飛び出してしまうのが椎間板ヘルニアです。

Aさんの生活は椅子に座って過ごすことが多いものでした。椅子に座っているとAさんの裏ももは座面に押し付けられています。長時間押し付けられたAさんの裏ももの筋肉は固くなってしまいました。固くなった裏ももの筋肉は骨盤を後ろに引っ張って後ろに倒します。

骨盤が後ろに倒れる。腰椎が曲がったまま圧迫される

後ろに倒れた骨盤はその上にある腰椎を猫背になる方向に曲がったままにしてしまいます。曲がったままの腰椎はそのまま上下から長い間、圧迫され続けることになります。

もし、Aさんに背筋を時折伸ばしたり、裏ももを柔軟にする習慣があれば、デスクワークで椎間板ヘルニアになる確率はかなり下がっていたでしょう。

 

腰椎の圧迫骨折。さらに腸脛靭帯が伸び切って歩けなくなる Bさんは老人性円背です。このケースは、Aさんのさらに先を行ったようなケースです。腰椎が曲がったまま固定されているとついには錐体が圧迫骨折を起こして、曲がったまま関節が動かない骨の形になってしまいます。

Bさんは円背に加えて足がガニ股に開いたままの姿勢で歩いています。腸脛靭帯という太ももの外側を走る大きな靭帯があります。

ガニ股で歩くと、腸脛靭帯を張って歩くことなります。それは、あたかも腰と膝下の両点に縛り付けられたゴムバンドにサポートされたような状態で歩けるのです。筋肉を活動させなくても身体を支えられるので楽なのです。

しかし、腸脛靭帯に長期間頼ってしまうと、今度はこの腸脛靭帯が伸びすぎてしまい戻らなくなります。足がガニ股で開くのは、腸脛靭帯がすでに伸び切ってしまっているということです。足を大きくガニ股で開かないと腸脛靭帯が張らないくらいまで伸び切ってしまっているからです。

伸び切ってしまった腸脛靭帯のモデル的図説

 

このように腸脛靭帯が伸び切ってしまった後でもすでにその歩き方に慣れきってしまっているので、それ以外の歩き方ができません。そこで神経系はますます腸脛靭帯を張るように仕向けます。さらに足をガニ股に開いて歩くように修正していくようになります。そのままガニ股がエスカレートしていくと最終的には膝が曲がりすぎて姿勢を保てなくなり、立ったり歩いたりできなくなります。

 

「膝を曲げてクッションにして着地する」は間違い Cさんは55歳の市民ランナーです。練習に度にひどくなる膝の痛みを抱えています。

Cさんの走りのフォームを見せてもらうと、全体的に重心位置の低いフォームでした。また、地面を離れた足が着地するときの膝関節も曲っていました。

相当熟練しているランナーでも誤解していることの一つとして、「膝が曲っていた方がショックを吸収するので良い」というものがあります。

しかし、実際にはその逆で膝関節が曲がっている状態で上下からの圧力があると、その負荷は曲がっている先端である関節に集中してしまいます。

そのため関節炎や靭帯の炎症、膝関節変形症になりやすくなるのです。

走る時は、歩く時より大きな力が働きます。なので、ダメージも大きいのです。

Cさんはフォームを改造したほうが良いでしょう。胸が先行して走り出す、重心位置の高いフォームが身につけば楽に走れてタイムも向上しますし、膝も長く使えるようになるでしょう。

しかし、シニアランナーに限らず痛くなったら練習をやめることが大切です。

骨、関節、靭帯といった体の資源は思ったより傷つきやすく、一度壊れてしまうとほとんど治りません。大切にして頂きたいと思います。

 

三人のことを振り返って分かるように、身体の使い方によっては、自分でも気づかないくらいじわじわとながら、身体が壊れていってしまうのです。

 

 

真っ直ぐ立って歩く

それでは、そうならないためにすべきことは何でしょうか。

それは、真っ直ぐ立って歩くことです。背筋を伸ばして、あごを引いて立ちます。そうして、背骨を真っ直ぐにする習慣を持つことです。

頭の重さは成人で5kgもあります。人は皆、首の上に5kgの重りを載せて生活しているようなものなのです。

その重い頭を支えるにはその頭を真っ直ぐ背骨の上に載せ、背骨も真っ直ぐに配置することです。

そのためには、脊柱起立筋と臀筋を働かせます。

脊柱起立筋は脊椎と並行して走っていて、この筋肉が活動すると脊椎が真っ直ぐになるよう導かれます。

臀筋は臀部にある筋肉の総称です。股関節を様々な方向動かす機能があります。その一つが股関節を伸ばすことです。

脊柱起立筋と臀筋の活動によって人は真っ直ぐに立って歩けるのです。

Aさんのケースのような、椎間板ヘルニアは腰椎が曲がったまま固定されてしまって起きることです。Bさんのケースでは、臀筋を働かせて股関節を伸ばせば腸脛靭帯に頼らなくても歩けます。Cさんのケースは臀筋と脊柱起立筋を活動させれば、重心位置が高い走りになって膝が必要以上に曲がって着地しなくなります。

真っ直ぐに立って歩くことに注意を払えば、自分の身体を長く守り、活かすことができるのです。

 

 

広背筋を活用した身体能力の開花

真っ直ぐに立って歩く。それだけで、身体の機能を守ることができます。

しかし、ロコムーブの狙いはそれだけにとどまりません。

ロコムーブの狙いは身体の機能を守る、ということを遥かに超え、隠された身体機能を引き出し、花開かせることにあります。

それは、歩く、走る、投げる、打つ、蹴る、跳ぶといった運動のパフォーマンスを引き上げることです。

ロコムーブは潜在的な身体能力を引き出す広背筋という筋肉の働き注目します。

広背筋

広背筋とは背中にある左右一対で、背骨、骨盤、肋骨に付着している筋肉です。もう一方は上腕骨に付着しています。付着している点がとても多い筋肉です。

そして、なんとも不思議な付き方をしている筋肉です。一方は上腕骨の肩関節の近くについています。広背筋はそこから脇の下を通って、肋骨に付着しつつも、さらにそこから伸びて、背骨と骨盤にまで付いているのです。

この筋肉はもともと動物が四足歩行だった時に活躍していました。四足歩行で前足を地面について、骨盤を前足の方に引き寄せるために使われていた筋肉です。人間が二足歩行に進化してしまったので、役割を失ったように思える筋肉です。

高い身体パフォーマンスを出すためには、体幹を素早く動かすことがとても重要です。歩く、走るということは体幹を前に進めることです。投げる、打つという動作ためには、まず体幹が素早く回転し、それに腕の動きが同期することで速く投げたり、打ったりできるのです。

ロコムーブは広背筋を活用して、「体幹を素早く前に進ませる」と「体幹を素早く回転させる」技術を提供します。

これからそのメカニズムを解説していきます。

 

 

広背筋が体幹を動かすメカニズム

筋肉が縮んで短くなる(以後、短縮という言葉を使います)と筋肉の付着点の両方が、お互いに引き寄せられます。ですので広背筋が短縮すれば、上腕骨が背骨や骨盤の方に引き寄せられると同時に、背骨や骨盤の方が上腕骨の方に引き寄せられます。

この広背筋の動きを引き出すためには①胸椎の伸展、そして、②胸椎7番〜腰椎〜骨盤の軸脚股関節上の回旋の動きによって行います。少し、言葉をわかりやすくしますと、背筋を伸ばしてみぞおちを引き上げます。さらには、脚が地面に付いていない方の胸を前に出すようにします。

広背筋が活動する条件

これらの条件が揃うことによって、広背筋の活動が起こり、上腕骨が背骨や骨盤の方に引き寄せられると同時に、背骨や骨盤の方が上腕骨の方に引き寄せられます。

さらに具体的にいいますと、以下の運動が起こります。

・肩甲帯の伸展:胸が開く

・肩関節の内旋:上腕が内側に回る

・遊脚股関節の内旋:地面に脚が付いていない側の股関節が内側に回る

・骨盤の挙上:骨盤が引き上げられる

これらの一連の運動によって体幹が素早く動きます。ここに挙げた動きのうち主に二つの動きが体幹を素早く動かすことに大きく貢献します。

その一つが、広背筋を活動させる条件であった胸椎7番〜腰椎〜骨盤の軸脚股関節上の回旋と、広背筋が活動した結果である骨盤の挙上です。これら二つの動きをロコムーブではそれぞれツイスト効果クレーン効果と呼びます。

 

 

体幹を素ばやく回旋させるツイスト効果

広背筋を活用して体幹を素早く動かすのがロコムーブでした。その動かし方には二つあります。まずはその一つがツイスト効果です。

広背筋は上腕骨についている他、肋骨、骨盤、背骨についています。

上腕骨の位置が固定される状態で広背筋を短縮させて、背骨を上腕骨のほうに誘導するのです。

すると胸が回転して前へ出てきます。骨盤も広背筋に引っ張られて同時に回旋します。すなわち広背筋が付着している胸椎からと骨盤までの幅広い範囲が上腕骨方向に一緒に回旋します。

この時、股関節が内旋します。

ツイスト効果によって、股関節が内旋する

もし、地面に脚がついて体重を支えていない状態であれば股関節が内旋すると、脚が内側に回旋します(下の図をご覧ください)。

股関節の内旋

地面に脚がついていなければ脚の方が回旋する

一方、もし脚が地面についていれば脚は地面によって固定されてしまっているので、回るのは体幹です(下の図をご覧下さい)。

股関節の内旋

地面に脚がついていれば体幹のほうが回旋する

さらに、この股関節の内旋によって前方に胴体が推出されます。体幹は横幅がある分、回旋すると少し前に出るのです。

地面についている脚を軸に体幹を回して方向を変えたり、方向を変えることで胴体をちょっと前進させたりするのがこの股関節の内旋の動きなのです。

それを広背筋の働きによって行うことで、素早い回旋が可能になります。

一般には股関節の回旋は臀筋によって行います。臀筋は大腿骨と骨盤に付着しているので、短縮すると骨盤に力がかかります。しかし、骨盤から上の胴体部分は直接力が加わるわけではありませんから、骨盤に上に載っているものとして骨盤の動きを追うように合わせて回旋します。なので、どうしても胸の方はワンテンポ遅れて回旋します。

また、臀筋によって股関節の回旋を素早く行うと、ワンテンポ遅れる胸との間で腰椎が捻じれのストレスに曝されることになります。結果、腰すべり症のリスクにつながります。臀筋で素早く股関節を回旋させようとするのは危険なことでもあるのです。

広背筋のツイスト効果によって股関節を回旋させようとすると、その回旋の力は背骨と骨盤に同時にかかります。これなら、胸がワンテンポ遅れることもなく連動して回旋できるのです。

この広背筋のツイスト効果は歩く、走る、投げる、打つ、蹴る、跳ぶといった様々な運動においてパフォーマンスを高めてくれます。

 

 

体幹を素ばやく前進させるクレーン効果

広背筋が体幹を素早く動かす効果としてもう一点あります。広背筋が骨盤に付着していて、短縮することで骨盤を引き上げます。

クレーン効果によって骨盤が引き上がる

これがクレーン効果です。

股関節を伸ばす働きを持つ筋肉があります。臀筋やハムストリングスです。まとめて股関節伸展筋群と呼ばれます。

骨盤が引き上げられると、この股関節伸展筋群がストレッチされます。

ストレッチされた筋肉は、短縮する余地が大きいのです。ストレッチされたところから短縮すると大きな力がでます。

股関節が伸展すると、もし脚が地面についていれば、胴体は前方に押し出されます。すなわち、身体を前に進ませるのがこの股関節の伸展です。

股関節の伸展

すなわち、クレーン効果によってこの股関節伸展筋群のストレッチが生まれ、体幹を素早く前に動かすことができるのです。

 

 

歩行が身体能力開花の原型

広背筋のツイスト効果とクレーン効果について解説しました。この二つの効果は実際に歩く、走る、投げる、打つ、蹴る、跳ぶといった動作でどのようにその効果を現すのでしょうか。

それを見るにあたって、まずは歩行におけるツイスト効果とクレーン効果から始めたいと思います。歩行には、広背筋の左右交互の短縮のサイクルがあり、他の動作の原型をなしているように見えるからです。

そこで、ロコムーブの理論に基づく歩行フォームをロコムーブ・ウォークと呼びます。

 

 

身体能力開花の原型ロコムーブ・ウォーク

それではロコムーブ・ウォークにおいて、ツイスト効果とクレーン効果がどのように現れるのか、どのように歩行のパフォーマンスを高めているのかを見ていきます。まずは、スローモーションの動画を御覧ください。

動きを連続写真でも見てみましょう。

ここからは、コマ送りで一つ一つ見ていくことにします。まずは最初のコマです。

 

上の写真を御覧ください。これは、奥側の足が着地したところです。高いところから振り下ろされた脚は膝関節が曲がりがほとんどありません。

一方、手前側の足は今にも地面を離れそうです。親指を中心とした先端部で地面を押しています。これから、こちらの脚に注目しながらコマ送りを見ていくことにします。

この時点ですでに手前側の広背筋は短縮を始めています。

このコマでの手前側の骨盤はかなり後ろにありますね。胸郭も手前側は後ろにあるのが見て取れます。

広背筋の短縮によって次のコマでこの骨盤や胸郭の位置がどうなっているかを見てみましょう。

 

次のコマです。

 

手前の脚は地面と離れました。

前のコマと比較して、手前側の胸郭と骨盤が前に出てきているのが分かると思います。

これは、前のコマで始まっていた広背筋の活動によってツイスト効果が生まれて、軸足股関節の回旋が起こったのです。

またクレーン効果により、前のコマではかなり低い位置にあった手前側の骨盤の位置が高くなりつつあります。

手前側の腕の内旋も観察できます。しかし、実際に広背筋が短縮しているのはここまでです。ここからは広背筋は弛緩状態になります。しかし、ここまでの広背筋の短縮により慣性が生まれます。慣性によって、広背筋は弛緩しているのに、ツイスト効果とクレーン効果が進行します。

 

さらに次のコマです。

 

 

広背筋は弛緩しているのに慣性によってツイスト効果とクレーン効果が進行しています。

手前側の胸郭と骨盤が前に押し出されています。軸足股関節の回旋の結果です。

また、手前側の骨盤の位置もかなり高くなりました。

 

さらに次のコマです。

 

広背筋の弛緩と、惰性によるツイスト効果とクレーン効果は継続しています。軸足股関節の回旋によって、手前側の胸郭と骨盤は強く前に押し出されています。

手前側の骨盤は最も高い位置に来ています。この高い位置から、手前側の脚が振り下ろされていきます。

この時逆側、奥の方の広背筋は伸長してしています。手前側の広背筋の短縮の惰性によって手前側のツイスト効果とクレーン効果が最大になると、反対側の広背筋は逆に伸長するのです。

これは左右の広背筋が拮抗筋のような動きをするためです。筋肉には反対の動きをするものがあって、それは例えば上腕三頭筋が肘関節を伸ばし、逆に上腕二頭筋が肘関節を曲げる関係です。どちらか一方の筋肉を短縮させると、もう一方の方は伸長します。

それと同じ動きがこの左右の広背筋の間で起こっています。

 

さて、次のコマです。

 

手前側の広背筋は相変わらず弛緩しています。

前に出た手前側の脚を見てください。膝関節が伸び始めました。

この膝関節が伸び始めることをきっかけに、今まで伸長していた奥の方の広背筋が短縮を始めます。今まで軸足だった奥の方の脚が、次は地面を離れた脚に役割を切り替えるための広背筋の担当がここで始まるのです。

この奥の方の広背筋が伸長から短縮に移った時、この左右一対の広背筋の伸長と短縮の役割は入れ替わったのです。

この伸長から短縮への移行の瞬間を切り替え点と呼びます。

 

これが最後のコマです。

 

これが最後のコマです。

手前側の足が着地しました。高い位置から振り下ろされているので、膝関節が曲がらずまっすぐに伸びています。

奥の方の広背筋は継続して短縮しています。

 

 

身体能力開花のための広背筋の活動サイクル

コマ送りでロコムーブ・ウォークを見ると、左右一対の広背筋が短縮、弛緩、伸張のサイクルを持っていることが分かります。

ここで整理のため、左右一対の広背筋のサイクルをまとめます。

この左右一対の広背筋の活動サイクルは、歩行だけでなく、走る、投げる、打つ、蹴る、跳ぶといった様々な運動で起こります。

 

 

ロコムーブ・ウォークにおける広背筋の活動サイクル

(一番右まで進んだら、また一番左に戻る)

 

 

ロコムーブ・ウォークで身体を守る

ロコムーブ・ウォークは左右一対の広背筋の活動サイクルを学習するために理想的な動作です。

一方、歩行というものはそれほど速度を必要としませんから、ロコムーブが目指す潜在的な身体能力の開花、という感じはしないかもしれません。

しかし、実際にはこのロコムーブ・ウォーク自体に大きなメリットがあるのです。

まずは、広背筋の活動によるクレーン効果があります。このクレーン効果によって、地面を離れた脚の側の骨盤は高く引き上げられます。

まずは、下の写真を見てください。

クレーン効果による骨盤を引き上げ

 

骨盤の地面を離れた方の足側が引き上げらているのが分かると思います。

このように骨盤が引き上げられると、この地面を離れた足が地面についた時にはすでに膝も股関節も伸びた状態です。

下の写真は骨盤が引き上げられた状態から足を着地させた時(下写真左)と、骨盤を引き上げない状態から足を着地させた時(下写真右)の比較です。

骨盤が引き上げられた状態からの着地 vs 骨盤が引き上げられない状態からの着地

 

地面についた時から膝や股関節が伸びた状態であることが分かります。

この着地の膝関節や股関節が曲がっているほど膝関節の変形症や炎症、または腰痛のリスクが高まります。着地の衝撃が曲がった関節に集中するからです。

歩行はそれほど速度を必要としませんが、一方で歩行は生活中で多用される動作です。

歩行フォームによる身体にダメージは長年のなかで蓄積していきます。

身体にダメージの無い歩き方をお勧めします。

クレーン効果がもたらす歩行へのメリットを述べましたが、もう一つの効果であるツイスト効果にもおおきなメリットがあります。

ツイスト効果によって、胸郭と骨盤が同調して回旋することです。下の写真をご覧下さい。

ツイスト効果で胸郭と骨盤が同調して回旋する

 

歩く時に、腕を後ろに振る動作をする人がいます。これは、おすすめできません。

理由はこれが腰に大きな負担となるからです。股関節の回旋の力と、腕を後ろに振る力は捻じれの関係にあります。その捻じれのストレスは両者の中間にある腰椎(腰の部分の背骨)にかかります。

腰椎は、回るための可動域がほとんどない関節の作りになっています。よく野球で腰を回して打つ、と言いますが回っているのは股関節であって腰椎ではありません。

本来回旋しない腰椎に捻りのストレスがかかった結果、すべり症などにより腰痛の原因になります。

この点についてもロコムーブ・ウォークは長期間の歩行を多用する生活のなかで身体を守るのです。

 

 

ロコムーブ・ウォークで心が変わる

人は嬉しいことがあると手足を投げ出したくなります。一方、がっかりしたり悲しいことがあると肩が落ちてしまいます。

このように心理状態によって姿勢が変わるということは直感的に理解できることだと思います。

一方で、それとは逆に姿勢が心理状態に影響を及ぼすという研究もあります。ある姿勢をとることによって心理状態がポジティブになったり、逆に別の姿勢を取ることで心理状態がネガティブになったりするということです。

エイミー・カディという心理学者が体を大きく見せるようなポーズを取ることで、ホルモン分泌が変わり、心理状態が変わるという講演をして大きな話題を呼びました。

論文として発表されている研究もあります。「Body posture effects on self-evaluation: A self-validation approach」 (Briñol,Petty & Wagner, 2009)という研究によると、背筋を伸ばして胸を張った姿勢を取り続けると、思考がポジティブな方向になり、かつ自分が考えていることにも自信が持てる、また逆に背筋を丸めた姿勢を取り続けると思考がネガティブになり、かつ自分が考えていることにも自信が持てなくなるということです。

 

姿勢の心理への影響

 

ロコムーブ・ウォークはクレーン効果によって、重心位置が高いまま歩きます。一方、一般的な歩行フォームは重心位置が低く、膝、腰、背中が丸まった姿勢で歩きます。

その背筋が丸くなった姿勢を継続すれば、思考はネガティブな方向に向かい、かつ、自分の思考にも自信がもてなくなるのです。

逆に生活に中にロコムーブ・ウォークを取り入れられれば、背筋を伸ばして胸を張った姿勢になる時間を作ることができます。思考はポジティブな方向に向かい、かつ、自分の思考にも自信が持てます。

 

 

広背筋でランニングが変わる

ロコムーブ・ウォークは左右一対の広背筋の交互の活動サイクル形成の原型でした。歩行に最も近い運動は走行です。もちろんランニングでも歩行に近い広背筋の活動サイクルを形成することができます。

その様子をスローモーションで捉えた動画があります。

左右一対の広背筋の活動サイクルをランニングに取り入れた走りをコマ送りで見てみましょう。

コマは右から左に進んで行きます。

1コマ目はちょうど切り替え点です。ここまでは手前側の広背筋は伸張していました。しかしこの時点で向こう側の膝関節の伸展が始まります。ここで手前側の広背筋の短縮が起こります。

その広背筋の短縮はあっという間に終わり、2コマ目から6コマ目まで手前側の広背筋は弛緩している間、惰性によってツイスト効果とクレーン効果が進んでいきます。それによって胸郭が向こう側に回旋しています。そして、手前側の骨盤が引き上げられます。

最後の7コマ目が次の切り替え点です。手前側の膝関節の伸展が始まります。そして、向こう側の広背筋が伸張していたものがこの時点で短縮を始めます。

膝関節の伸展が切り替え点になることは歩行と変わりありません。しかし、走行は歩行と違って両足が着地している時間はなく、両足とも地面を離れている時間があることが大きな違いです。

下に、ランニングの時の左右一対の広背筋の活動のサイクルをまとめます。

 

ランニングにおける広背筋の活動サイクル

(一番右まで進んだら、また一番左に戻る)

ランニングにおいては、広背筋の活動によるクレーン効果とツイスト効果のメリットは歩行よりも大きくなります。なぜならランニングの方が歩行よりも動きが大きくなります。

もし、足が着地する時、膝関節が曲がっていれば膝関節への負担は歩行のときよりも大きくなります。広背筋の活動によってクレーン効果を得られると、足が着地する時の重心位置が高くなり膝の曲がりが小さいまま着地することができます。

また、ツイスト効果のメリットも歩行の時より大きいです。走るときの股関節の回旋の力は歩行のときより大きくなります。腕を後ろに振るなどして上体で逆方向の回旋の力を加えると捻れのストレスはより大きく腰椎にかかります。ツイスト効果によって骨盤と体幹を同時に回旋できれば捻じれのストレスがなくなります。腰すべり症を防ぐことができます。

それだけではありません。ツイスト効果とクレーン効果は走りそのものを少ない筋出力で実現します。より速く、より長い時間走れるのです。

 

 

広背筋でゴルフのスイングが変わる

ロコムーブ・ウォークに見られた左右一対の広背筋の活動は他の運動にも見られます。その一例としてゴルフのスイングを見ていきます。

これもコマ送りで見ていきましょう。

 

7コマに切り取られた振りかぶって打つという一連の動作です。歩行とはおよそ関係なさそうに見える動作です。しかし、ここにも左右一対の広背筋の活動サイクルがあります。

最初のコマは、構えです。ここから2コマ目で、向って右側の広背筋が短縮します。それによってツイスト効果が生まれます。胸郭が向って左側に回旋していきます。3コマ目で向かって右側の広背筋の短縮は最大化していきます。一方、向かって左側の広背筋は伸張して行きます。

それが4コマ目で切り替え点を迎えます。スイングが開始される局面です。今まで大きく伸張していた向かって左側の広背筋が短縮に切り替わります。大きく伸張された広背筋は5コマ目、6コマ目にかけて強い力でツイスト効果が働きます。向かって右方向に胸郭を回旋させます。その胸郭の回旋に腕が同調することでクラブを振ります。一方、向かって右側の広背筋は弛緩しています。

左右一対の広背筋の活動サイクルとしては下のようになっています。

 

ゴルフスイングにおける広背筋の活動サイクル

 

 

広背筋でピッチングが変わる

次の例としてピッチングを見ていきます。

これもコマ送りで見ていきましょう。

ピッチングの動作を10コマに切り取りました。1コマ目では左右の広背筋はどちらも短縮していません。それが、2コマ目で脚が浮いている側である向かって右の広背筋が短縮します。それによって、ツイスト効果が起こり胸郭が向かって左側に回旋します。かつ、クレーン効果によって向かって右側の骨盤が引き上げられています。

そこから3コマ目、4コマ目、5コマ目まで高い位置エネルギーを活かして投げる方向に大きく重心を前進させます。この間左右とも広背筋は弛緩しています。

6コマ目になって今度は向かって左の広背筋が短縮を始めます。ここで7コマ目まで強いツイスト効果が働いて非常に素早く胸郭が向かって右側に回旋していきます。その胸郭の回旋に腕が同調することでスピードのある投球ができるのです。

8コマ目ではその広背筋は弛緩してしまいます。9コマ目、10コマ目はその惰性でツイスト効果とクレーン効果が続き、胸郭はさらに回旋し、脚が浮いている側の骨盤は高く持ち上がっていきます。

左右一対の広背筋の活動サイクルとしては下のようになっています。

ピッチングにおける広背筋の活動サイクル

 

 

広背筋でバッティングが変わる

最後の例としてピッチングを見ていきます。

これもコマ送りで見ていきましょう。

7コマに切り取られたバッティングの動作です。ここにも左右一対の広背筋の活動サイクルがあります。その姿はゴルフのスイングによく似ています。

最初のコマは、構えです。ここから2コマ目で、向って右側の広背筋が短縮します。それによってツイスト効果が生まれます。胸郭が向って左側に回旋していきます。一方、向かって右側の広背筋は伸張して行きます。

それが3コマ目で切り替え点を迎えます。浮いた右脚の膝関節が伸展し始めました。スイングが開始される局面です。今まで大きく伸張していた向かって右側の広背筋が短縮に切り替わります。大きく伸張された広背筋は3コマ目、4コマ目にかけて強い力でツイスト効果が働きます。向かって右方向に胸郭を回旋させます。その胸郭の回旋に腕が同調することでバットを振ります。一方、向かって左側の広背筋は弛緩しています。

左右一対の広背筋の活動サイクルとしては下のようになっています。

バッティングにおける広背筋の活動サイクル

 

 

広背筋の活動サイクルを身につけるためのトレーニング

ここまで、ロコムーブ・ウォークを始めとして左右一対の広背筋の活動サイクルを活かした運動について紹介しました。

広背筋を主動作筋として運動をするには沢山の前提条件が満たされている必要があります。例えば胸椎の伸展や、肩甲帯の伸展などを始めとして多くの人にとってあまり身についていない姿勢や動作を前提とします。

それらの姿勢や動作は理屈で理解してもなかなかその通りに動けるわけではありません。沢山の前提となる姿勢や動作を全て理解した通りに行うことはとてもむずかしいものです。

そこで、ロコムーブには姿勢や動作を要素分解して部分的に再現しながら反復して、自然な動作として刷り込むためのトレーニングがあります。

このトレーニングは量を沢山するのではなく、少ない回数でも動きを正確に行うことが必要です。

動きの正確さを確かめながらトレーニングを進めて行く必要があります。そのためには、ロコムーブを修めて正しい動作を理解している指導者の指導を受けながらトレーニングを行うことが望ましいです。

ここではロコムーブのトレーニングの基本三種目である「フェニックス」「カンガルー」「チーター」を紹介します。

全てののトレーニングはロコムーブ・スタンスという立位の姿勢から始まります。

 

ロコムーブ・スタンス

ロコムーブでは立位の姿勢を「これから動き出すための姿勢」と考えています。そのため、立位の姿勢で大切なのは、スムーズな重心移動を行うための構えを取ることです。そのために、重心位置を高く保つことです。そして、重心を前方に位置させることです。

 

そのために以下のような姿勢になります。

  1. 歩行開始の構えは重心位置の高く保ちます。足部MP関節(母子球の並びの関節です)上に背骨が位置するようにして、頭の方に伸ばします。
  2. 支持基底面である足の裏の安定性限界の前方縁(立っていられる限界まで前)に足圧が来るようにします。

 

さらに体の主な関節の位置関係を挙げていきます。

 

上位頚椎軽度屈曲・下位頚椎伸展

あごを引きます。結果、首の下のほうが伸び、上の方が曲がります。

 

胸椎伸展

みぞおちを引き上げます。

 

骨盤挙上

骨盤を立てます。

 

股関節軽度伸展・軽度外転・内旋

足が股関節の真下に位置するようにして、まっすぐ立ちます。

 

膝関節伸展

膝を曲げずにまっすぐ伸ばします。

 

距腿関節内転・軽度背屈

両足の外側が並行になるように立ち、前方に重心をかけます。

 

母指外転

足の親指を開きます。

 

肩甲帯軽度伸展・下制

胸を開いて、肩が自然と後ろに落ちるに任せます。

 

 

ロコムーブ・スタンス

 

ここから、それぞれの種目について説明をしていきます。

 

基本種目1: フェニックス

 

目的

ロコムーブの歩行フォームでは、みぞおちが引き上がっている(胸椎の伸展)、そして胸がひらいている(肩甲帯の伸展)ことが姿勢の基本になっていました。フェニックスの目的は胸椎の伸展と肩甲帯の伸展を連動して行うことで、広背筋の活動を引き出すことです。肩甲帯を伸展させるにあたって、胸椎の伸展を伴わない場合には、僧帽筋中部の短縮によっても行われてしまうことから、胸椎と肩甲帯の伸展が連動して行うことで広背筋が活動するための意識付けをします。

ロコムーブにおいては広背筋を主働筋として活動を習得することがロコムーブの歩行を身につけるための重要事項です。

 

動作

<スタートポジション>

  • ロコムーブスタンスから動作を開始します。
  • 両手を組んで肘を伸ばした状態で胸椎中部を無理なく伸展させます。この時両手の親指を人差し指同士を合わせて突き出します。

<動作プロセス>

  • その後、両腕を前から後ろへ頭上に上げます。両腕は耳の後ろに付くようにします。

  • 肘関節を軽度に屈曲させながら、肩関節を内転させて、腕を側方に開いていきます。手のひらが体幹より後方に位置するようにし、高さが肩の高さまで開く。この動きによって、肩甲帯と胸椎が連動しながら伸展します。

<フィニッシュ>

  • 手のひらは地面に対して垂直なるように立てます。
  • 上記の動きに合わせて骨盤を上前方に引き上げます。結果的に広背筋が主働筋として活動し、短縮します。
  • 下ろした時と逆の起動を辿って腕を真上に挙げて手のひらを合わせます。

注意点

  • 両足の外側が並行になっていることを確認する必要があります。両足が外側に開いていると、股関節が外旋します。すると、骨盤が後傾しやすくなり、結果として胸椎が屈曲しやすくなります。そうなると、広背筋を主働筋とした動きが難しくなります。
  • 腕を組んで手を頭上に上げた際に、両腕が耳の後ろに位置するようにします。両腕が耳の前に位置するようだと、肩甲帯が伸展させることができず、肩甲帯の伸展と胸椎の伸展を連動させることができません。
  • 腕を開いた時に手のひらが地面と垂直に位置するようにします。手のひらが地面に対して斜めに位置してしまうと、手のひらの内旋が肘関節、さらには肩関節まで伝わりません。結果として腕の内旋をさせることができません。
  • 腕を開いた時の肘関節の角度が90度~120度の範囲であるようにします。肘関節の角度が90度未満となると、肩甲帯を伸展させる動作が広背筋ではなく、僧帽筋中部による動作に変わってしまいます。広背筋を主働筋とした動作になりません。
  • 開いた時の腕の位置が、体幹より後方に位置するようにします。腕の位置が体幹よりも前方に位置してしまうと、腕を開く動作が肩甲帯を伸展させません。広背筋を主働筋とした動きを引き出せません。
  • 開いた時の手のひらが、体幹に対して側方を向いているように位置させます。手のひらが前方を向いてしまうと、腕を内旋させることができません。
  • 腕を開いた時に足の前方に荷重がされている必要があります。足の後方に荷重されてしまうと、後方に倒れてしまわないように腹筋が短縮します。広背筋を主働筋とした動作になりません。

 

補助

指導者の判断によって以下の補助を行うことで、より実践者がより強い体感を得ることができます。

  • 実践者が腕を側方に開いて行く際に、指導者が骨盤上部を左右の手で押し引き上げます。肩甲帯の伸展と胸椎の伸展と連動した、広背筋の主動筋としての短縮を実践者が意識しやすくなります。
  • 実践者が腕を側方に開いて行く際に、僧帽筋中部の緊張により肩の関節が挙上されてしまっている場合には、広背筋の主働筋としての働きは十分に起こりません。そのような場合には、指導者は実践者の鎖骨部分を上から軽く抑えることで実践者に僧帽筋中部の緊張を解くように促すことができます。

 

基本種目2: カンガルー

 

目的

ロコムーブの歩行フォームでは、地面を離れた脚(遊脚)側の股関節が曲がります。かつ広背筋が活動して骨盤を引き上がります。その間、股関節を伸ばす筋肉群(股関節伸展筋群)が脚の運動によって引っ張られて伸びて行きます。

しかし、実はこの間、股関節伸展筋群は引っ張られながらも緊張しています(伸張性収縮)。引っ張られながらも緊張することで縮むエネルギーを溜めているのです。それがある時点になると、勢いよく縮みます(短縮性収縮)。そして股関節が勢いよく伸展し、足は勢いよく地面に着地し、地面反力を得ます。

カンガルーはこの一連に動きを左右両側同時ではあるものの繰り返し行うことで、その骨盤のポジショニングを習得するための種目です。

股関節伸展筋群は座っていると座面に押し付けられてこりやすい筋肉です。この種目を通じて、股関節伸筋群の弾力性の向上も期待できます。

 

動作

<スタートポジション>

  • ロコムーブスタンスから動作を開始します。
  • 骨盤に手を当てて、両肘を体の中心に近くなるように左右を寄せ、肩甲帯を伸展させます。

<動作プロセス>

  • 足が並行になるよう、両足の間と両膝の間が股関節が等しい幅に開くように位置させます。胸をまっすぐ伸ばしたまま、骨盤を後方に引きます。それによって股関節伸展筋群の伸ばされたまま緊張しています(伸張性収縮)。

<フィニッシュ>

  • 股関節伸展筋群が伸張性収縮によって溜まった縮む力で、勢い良く骨盤を膝の真上の位置に立ち上がります。
  • 元の位置に戻ります。

注意点

  • 両足の外側が並行になるように立ちます。それによって股関節は軽く内側に回旋しています。両足の外側が左右に開く位置で立つと、股関節が外旋されてしまいます。よって骨盤が後傾しやすく股関節の曲がる角度を十分でなくなってしまいます。
  • 胸椎が軽度伸展している姿勢を保ちます。胸椎が軽度伸展していないと、広背筋の主動筋としての活動を引き出せません。よって広背筋の主働筋としての運動と股関節伸展筋群のストレッチの連動した動きを引き出すこともできません。
  • 動作中に膝が前後に動かないように保ちます。動作中に膝が前後に動いてしまうと、骨盤を後方に引く動作が必ずしも股関節を屈曲させません。膝関節を屈曲させるように作用してしまいます。
  • 両肘が体の中心に向かって左右を寄せます。両肘が左右に開いてしまうと、肩甲帯が伸展しないため、広背筋の主動筋として活動を引き出せません。
  • 骨盤を引いた際に、両足の外側に荷重がされているように姿勢を保ちます。両足の内側に荷重がされていると、膝が股関節の真下ではなく、内側に入ってしまうため股関節の屈曲がしにくくなります。

 

補助

補助は特に行いません。

 

基本種目3: チーター

 

目的

ロコムーブの歩行フォームでは広背筋が骨盤を引き上げます。普段骨盤の上には様々な内臓があり、その重さは常に骨盤にかかっています。それでは、その内臓の重さがなければ骨盤はもっと自由に動くのではないでしょうか?それを実際に体感するのがこのチーターです。

股関節90度以下の深い前傾姿勢を形成した状態で脊柱全体を真っ直ぐにします。そして前傾姿勢により骨盤を内蔵の重力負荷から開放し、その高い自由度のもと骨盤の前傾・挙上の動作を行います。そして、胸椎・肩甲帯の伸展の動作。そして、股関節伸展筋群の伸張性収縮を連動して行います。

動作

<スタートポジション>

  • 股関節を90度〜120度屈曲させた前傾姿勢を形成します。
    その際、脊柱の頚椎〜尾骨までを一直線上になるようにします。
    足圧は踵やや前方の中足部にくるようにします。

<動作プロセス>

  • 股関節の角度や脊柱は構えの状態のまま、鎖骨を開くように肩甲帯を伸展させます。

<フィニッシュ>

  • 両手は股関節の位置に添えてフィニッシュを迎えます。

注意点

  • 構えの時にできるだけ、脊柱を真っ直ぐになるよう伸展させます。
    構えで脱力して休むようにしないようにしましょう。
    ハムストリングス・内転筋群に伸長感を感じます。
  • 構えの時の足圧は踵ではなく、中足部MP関節上とします。
  • 構えからフィニッシュに向かって、肩甲帯を屈曲しないで腕を引き上げましょう。
  • フィニッシュ時に手をお腹に引き付けず、股関節に添える位置にします。

 

補助

指導者の判断によって以下の補助を行うことで、より実践者がより強い体感を得ることができます。

  • 前額面上で股関節〜膝関節〜足関節を垂直に配列した状態が形成できたら、大腿部内側を把持して股関節内旋の補助を加えます。

 

 

トレーニングの後は歩行を

ロコムーブのトレーニングを行った後には、是非歩いてみて、自分で歩いている時の体感を確かめて頂きたいです。

また、逆にこれから歩こうとする時、または走ろうとする時にロコムーブトレーニングをしてから歩く、または走ることをおすすめしています。

歩き、または走りの重心位置が引き上がり、より少ない筋出力で歩き、走りができる体感が得られれば、是非その体感を大切にして頂きたいです。

ロコムーブのトレーニングはそれ自体が目的ではなく、歩行のための運動学習を目的とするものです。

一日の生活の中で、歩行の機会は多くあります。トイレに立つのも歩行の機会だからです。

そういった機会でロコムーブ・ウォークを意識して歩行することで、こまめに緊張の少ないまま体重を支える時間を作ることができます。

また、意識的に散歩の機会を作るのも良いでしょう。そのような機会の中で年齢によらず「より動ける自分」「かつてないほどに動ける自分」に常に出会って頂きたいものです。

 

 

最後に – 自信を持って充実した人生を

世の中にはダイエットや筋トレに取り組む人がいます。私はダイエットや筋トレが悪いこととは思いませんが、それらは一体何のためなのかな、と思います。

スマートな身体や、引き締まった身体は、周囲の人からの承認を得やすい身体かも知れません。また、それが自信にもなるかも知れません。

健康のため、という人もいるでしょう。それはいい理由だと思うのですが、あるいは、周囲から認められること、そしてそれを自信につながることという要素も少なからず含まれているのではと思います。

自分自身の身体を周囲からの承認のために変えていくこと。または、自信を得るためのために変えていくこと。それは、本当の意味で自分自身に満足をもたらすのだろうかと疑問に思います。

自信というものは本来ならばもっと自分勝手に湧き上がって、これといった根拠も無しに自分勝手に自分を承認するものなのでは、と思うのです。

本当であれば、なんの根拠も無しに自分を承認できるのに越したことはないのですが、ロコムーブがそれに近いものになればと思っています。

ロコムーブは、自分の身体に不足している機能を加えるようなトレーニングではなく、自分の身体の機能をよりうまく活用して、思ったように動けるためのものです。

それは欠乏に注目するのではなく、今あるものを合理的に活かして生きていくことです。その態度こそが何もないところからの深い自信になるものと信じています。

医療や衛生の向上によって、私達の人生は私達の祖先のそれよりずっと長いものになりました。

その一方で、現代の生活はテレビ、パソコン、スマートフォンといったメディアデバイスに囲まれ、私達の意識は画面の中の世界に行ってしまってばかりです。

ロコムーブの運動学習が進むと、自分の身体が思ったより動くようになったと感じる瞬間がやってきます。

そうなると、今度は自分の身体がどこまで動くか試したくなるものです。それは、メディアデバイスの画面の外に飛び出して、身体で世界を感じることです。スポーツにチャレンジしたり、ちょっと散歩をすることにしたり。ご自身の状況に合わせたチャレンジをしてくださればと思います。

そこには、メディアデバイスの画面の中とは異なる、記号化されないご自身と身体とのやり取りや、世界とのやり取りがあるのだと思います。

自信をもって充実した人生を送るためにロコムーブがお役に立てばと思います。


付録 - ロコムーブ・ウォークのランチョロスアミーゴ方式との比較

付録としてロコムーブ・ウォークの特徴を代表的な歩行分析の方法であるランチョロスアミーゴ方式と比較したものを掲載します。

 

  1. 初期接地時の矢状面上での接地点と股関節と上半身重心の距離が近接
  2. 荷重応答期の股関節・膝関節の屈曲が小さい
  3. 荷重応答期間が約1/2に短縮
    前脛骨筋・大腿四頭筋・中殿筋の遠心性収縮による衝撃吸収時間の短縮
  4. 前遊脚期間が約1/3に短縮
  5. 両脚支持期が1/2以上短縮
  6. 片脚支持期の延長
  7. 立脚後期(加速期間)の延長
  8. 支持脚の足部MP関節上での回転軸期間の延長。踵・足関節の回転軸期間の短縮
  9. 遊脚側の上半身重心が高く・体幹前傾が大きい
  10. 遊脚中期の足関節のクリアランス消失
  11. 床反力作用点と重心線の距離が長く、身体重心に生じる加速度が大きい
  12. 足関節回転軸の消失
  13. 胸郭と骨盤が同一方向に回旋することで、歩幅の拡大

 

以下にその中でも特に特徴的なものについて述べる。

 

広背筋の主動作筋化 - ロコムーブ・ウォークは広背筋を主動作筋として【伸張〜短縮〜弛緩】のサイクルを適切に促進することで機械効率の良い重心移動を実現するための方法論と言える。

広背筋は胸郭・骨盤を中心とした回旋に対抗する回転モーメントを生み出す。立脚中期の初期はまだ胸郭は中間位ではなく、足関節の直上で中間位となり、forefoot rocker にて伸張期は開始される。反対側が遊脚終期のタイミングで観測肢の広背筋は短縮を開始する。遊脚中期・終期が反対側広背筋の伸張・短縮の切り替え期と言える。この時期は、最も胸郭の回旋の大きな時期であり、中間位に戻すように観測肢広背筋は短縮を行う。この広背筋の活動は胸腰筋膜を通じて反対側の大殿筋の活動を促通させ、遊脚終期〜初期接地の股関節伸展をスムーズにさせる。

 

下表はランチョロスアミーゴ方式による歩行周期を広背筋の運動を対応させたものである。観測肢は右側、反対側は左側とする。

 

観測肢筋活動(右) 観測肢歩行周(右) 左反対側肢筋活(左) 反対側肢歩行周期(左)
伸張 立脚中期 弛緩 遊脚初期
伸張 立脚終期序 弛緩 遊脚中期
短縮 立脚終期終 弛緩 遊脚終期
短縮 前遊脚期 弛緩 初期接地
短縮 前遊脚期 弛緩 荷重応答
弛緩 遊脚初期 伸張 立脚中期
弛緩 遊脚中期 伸張 立脚後期序
弛緩 遊脚終期 短縮 立脚後期終
弛緩 初期接地 短縮 前遊脚期
弛緩 荷重応答期 短縮 前遊脚期

 

着地点・股関節・上半身重心が矢状面上で近接 - 初期接地において、着地点と股関節と上半身重心が矢状面上で近接する理由として2点考えられる。

1点目は、立脚中期〜後期で蓄えられた広背筋の伸張性の弾性エネルギーが立脚後期終盤に解放されることで大きな加速度が遊脚側に与えられるため、反対側下肢が初期接地するや否や体重の受渡しが速やかに実行されるため。

2点目は、上記の広背筋の弾性エネルギーの解放は、それに引き続く遊脚側の胸郭〜骨盤を挙上し大きな位置エネルギーを獲得する。遊脚側が高い重心位置を形成した状態で初期接地するので、初期接地時の膝関節の屈曲は最小となるため。

 

荷重応答期の短縮 - 上記の理由により、初期接地時に着地点と股関節〜上半身重心の距離を矢状面上で近接させ荷重応答期の短縮を引き起こしたと考えられる。
この荷重応答期の短縮は、一般的に荷重応答時に衝撃吸収で働いていた前脛骨筋・大腿四頭筋・中殿筋の伸張性収縮の活動時間の短縮をもたらし、上記筋の負担を軽減している。さらに、荷重応答期の短縮は両脚支持期の短縮が起こっていることも意味する。つまり、ロコムーブではランチョ・ロス方式と比較すると単脚支持期が長い歩行形態とも言える。

 

立脚後期の延長 - ロコムーブでは全立脚期間の中では立脚後期が長い。この理由として、立脚後期の定義として軸脚の踵が浮いた時と定義されておりロコムーブでは遊脚側の重心位置が高位に配置されており踵の浮きが速くMP関節上、いわゆる前足部荷重が長いためと考えられる。

前足部荷重によるMP関節上に回転軸があるメリットとして、重心の移動方向の自由度拡大が挙げられる。MP関節の矢状面に対する軸は母指側の軸は斜め内側を向き、小指側は斜め外側を向く。通常、足関節を回転軸とした場合、足部の向いた方向にしか身体は回転できない。MP関節上であれば身体の回転方向をコントロールしやすいと言える。また、これは股関節の内外旋・内外転の3次元機能の賦活化にも貢献すると言える。一般的に前足部荷重が困難な高齢者が方向転換時に転倒しやすいのは、身体が進もうしている方向と足部回転軸の方向が一致していないことも一因と考えられる。

また、長い立脚後期は床反力作用点と重心線の距離の拡大をもたらす。床反力作用点と重心線の距離は身体が回転する場合の回転半径となるため、回転半径の増大は角運動量の増大をもたらし、身体重心に生じる前方への大きな加速度を生じさせる。また上記と並行して、床反力ベクトルの傾きも大きくなる。

床反力ベクトルは床反力作用点から身体重心へ向かう。よって床反力作用点から身体重心が遠ざかると、床反力ベクトルの傾きも大きくなり、身体重心を押し出す力も大きくなり、身体重心への加速度も大きくなる。つまり、歩行中の加速区間が長いこともロコムーブの特徴と言える。

 

フットクリアランスの消滅 - 歩行中のつまづき防止のため、遊脚期はフットクリアランスと呼ばれる10〜20mm程度の距離が必要とされている。一般的には遊脚期に足関節を背屈させてこの距離を獲得するのだが、ロコムーブでは遊脚側の骨盤と胸郭が引き上がり、フットクリアランスが獲得されているので足関節の背屈は見られない。